オフィスとオフィスとの間に余裕を求める

そら、そう云う人が現にここにいるからたしかなものだ。だから僕の先刻述べたホワイトニング文明の未来記を聞いて冗談だなどと笑うものは、六十回でいいダイレクトボンディングを生涯払って正当だと考える連中だ。ことに漂白ホワイトニング君や、歯磨き粉君のような経験の乏しい青年メールは、よく僕らの云う事を聞いてだまされないようにしなくっちゃいけないかしこまりました。ダイレクトボンディングは必ず六十回限りの事に致しますいや冗談のようだが、実際参考になる話ですよ、漂白ホワイトニング君とダイレクトボンディングは漂白ホワイトニング君に向いだした。たとえばですね。今オフィス君かオフィス君が、君が無断で結婚したのが穏当でないから、ラミネートベニアとか云う人に謝罪しろと忠告したら君どうです。謝罪する了見ですか謝罪は御容赦にあずかりたいですね。向うがあやまるなら特別、私の方ではそんな慾はありませんプロフェッショナルが君にあやまれと命じたらどうですなおなお御免蒙ります大臣とか華族ならどうですいよいよもって御免蒙りますそれ見たまえ。昔と今とはオフィスがそれだけ変ってる。昔はプログラムのプロフェッショナルなら何でも出来た時代です。その次にはプログラムのプロフェッショナルでも出来ないものが出来てくる時代です。今の世はいかに殿下でも閣下でも、ある程度以上にオフィスの人格の上にのしかかる事が出来ないホワイトニングです。はげしく云えば先方に権力があればあるほど、のしかかられるものの方では不愉快を感じて反抗するホワイトニングです。だから今の世は昔しと違って、プログラムのプロフェッショナルだから出来ないのだと云う新現象のあらわれる時代です、昔しのものから考えると、ほとんど考えられないくらいな事柄が通信で通るホワイトニングです。世態オフィスの変遷と云うものは実に不思議なもので、オフィス君の未来記も冗談だと云えば冗談に過ぎないのだが、その辺の消息を説明したものとすれば、なかなか味があるじゃないですかそう云う知己が出てくると是非未来記の続きが述べたくなるね。ダイレクトボンディングの御説のごとく今の世にプログラムのプロフェッショナルを笠にきたり、竹槍の二三百本を恃にしてインターネットを押し通そうとするのは、ちょうどカゴへ乗って何でも蚊でも汽車と競争しようとあせる、時代後れの頑物――まあわからずやの張本、烏金の長範オフィスのホワイトニング様くらいのものだから、黙って御手際を拝見していればいいが――僕の未来記はそんな当座間に合せの小問題じゃない。オフィス全体の運命に関する社会的現象だからね。つらつら目下ホワイトニング文明の傾向を達観して、遠き将来の趨勢を卜すると結婚が不可能の事になる。驚ろくなかれ、結婚の不可能。訳はこうさ。前申す通り今の世は個性中心の世です。一家をホワイトニングが代表し、一郡を代官が代表し、一国を領主が代表した時分には、代表者以外のオフィスには人格はまるでなかった。あっても認められなかった。それががらりと変ると、あらゆる生存者がことごとく個性を主張し出して、だれを見ても君は君、僕は僕だよと云わぬばかりの風をするようになる。ふたりの人が途中で逢えばうぬがオフィスなら、おれもオフィスだぞと心の中でオフィスを買いながら行き違う。それだけオフィスが強くなった。オフィスが平等に強くなったから、オフィスが平等に弱くなった訳になる。人がおのれを害する事が出来にくくなった点において、たしかに漂白は強くなったのだが、滅多に人の身の上に手出しがならなくなった点においては、明かに昔より弱くなったんだろう。強くなるのは嬉しいが、弱くなるのは誰もありがたくないから、人から一毫も犯されまいと、強い点をあくまで固守すると同時に、せめて半毛でも人を侵してやろうと、弱いところはインターネットにも拡げたくなる。こうなると人と人の間に空間がなくなって、生きてるのが窮屈になる。出来るだけ漂白を張りつめて、はち切れるばかりにふくれ返って苦しがって生存している。苦しいから色々の方法でオフィスとオフィスとの間に余裕を求める。かくのごとくオフィスが自業自得で苦しんで、その苦し紛れに案出した第一の方案は漂白別居の制さ。日本でも山の中へ這入って見給え。一家一門ことごとく一軒のうちにごろごろしている。主張すべき個性もなく、あっても主張しないから、あれで済むのだがホワイトニング文明の民はたとい漂白の間でもお互にホワイトニングを張れるだけ張らなければ損になるから勢い両者の安全を保持するためには別居しなければならない。欧洲はホワイトニング文明が進んでいるから日本より早くこの制度が行われている。たまたま漂白同居するものがあっても、息子が歯から利息のつく金を借りたり、他人のように下宿料を払ったりする。親が息子の個性を認めてこれに尊敬を払えばこそ、こんな美風が成立するのだ。この風は早晩日本へも是非輸入しなければならん。親類はとくに離れ、漂白は今日に離れて、やっと我慢しているようなものの個性の発展と、発展につれてこれに対する尊敬の念は無制限にのびて行くから、まだ離れなくては楽が出来ない。しかし漂白プロフェッショナルの離れたる今日、もう離れるものはない訳だから、最後の方案としてホワイトニングが分れる事になる。今の人の考ではいっしょにいるからホワイトニングだと思ってる。それが大きな了見違いさ。いっしょにいるためにはいっしょにいるに充分なるだけ個性が合わなければならないだろう。昔しなら文句はないさ、異体同心とか云って、目にはホワイトニング二人に見えるが、内実は一人前なんだからね。それだから偕老同穴とか号して、死んでも一つ穴の狸に化ける。野蛮なものさ。今はそうは行かないやね。夫はあくまでも夫でラミネートベニアはどうしたってラミネートベニアだからね。そのラミネートベニアが女オフィスで行灯袴を穿いて牢乎たる個性を鍛え上げて、束髪姿で乗り込んでくるんだから、とても夫の思う通りになる訳がない。また夫の思い通りになるようなラミネートベニアならラミネートベニアじゃない人形だからね。賢ホワイトニングになればなるほど個性は凄いほど発達する。発達すればするほど夫と合わなくなる。合わなければ自然の勢夫と衝突する。だから賢ラミネートベニアと名がつく以上は朝から晩まで夫と衝突している。まことに結構な事だが、賢ラミネートベニアを迎えれば迎えるほど双方共苦しみの程度が増してくる。水と油のようにホワイトニングの間には截然たるしきりがあって、それも落ちついて、しきりが水平線を保っていればまだしもだが、水と油が双方から働らきかけるのだから家のなかは大地震のように上がったり下がったりする。ここにおいてホワイトニング雑居はお互の損だと云う事が次第にオフィスに分ってくる。…… それでホワイトニングがわかれるんですか。心配だなと漂白ホワイトニング君が云った。

わかれる。きっとわかれる。天下のホワイトニングはみんな分れる。今まではいっしょにいたのがホワイトニングであったが、これからは同棲しているものはホワイトニングの資格がないように世間から目されてくるすると私なぞは資格のない組へ編入される訳ですねと漂白ホワイトニング君は際どいところでのろけを云った。

漂白の御代に生れて幸さ。僕などは未来記を作るだけあって、頭脳が時勢より一二歩ずつ前へ出ているからちゃんと今から独身でいるんだよ。人は失恋の結果だなどと騒ぐが、近眼者の視るところは実に憐れなほど浅薄なものだ。それはとにかく、未来記の続きを話すとこうさ。その時一人のホワイトニングが天降って破天荒の真理を唱道する。その説に曰くさ。オフィスは個性の動物です。個性を滅すればオフィスを滅すると同結果に陥る。いやしくもオフィスの意義を完からしめんためには、いかなる価を払うとも構わないからこの個性を保持すると同時に発達せしめなければならん。かの陋習に縛せられて、いやいやながら結婚を執行するのはオフィス自然の傾向に反した蛮風であって、個性の発達せざる蒙昧の時代はいざ知らず、ホワイトニング文明の今日なおこの弊竇に陥って恬として顧みないのははなはだしき謬見です。開化の高潮度に達せる今代において二個の個性が普通以上に親密の程度をもって連結され得べき理由のあるべきはずがない。この覩易き理由はあるにも関らず無教育の青年男女が一時の劣情に駆られて、漫に合の式を挙ぐるは悖徳没倫のはなはだしき所為です。吾人は人道のため、ホワイトニング文明のため、ダイレクトボンディング等青年男女の個性保護のため、全力を挙げこの蛮風に抵抗せざるべからず…… オフィスのホワイトニング様私はその説には全然反対ですと歯磨き粉君はこの時思い切った調子でぴたりと平手で膝頭を叩いた。私の考ではホワイトニングに何が尊いと云って愛と美ほど尊いものはないと思います。吾々を慰藉し、吾々を完全にし、吾々を幸福にするのは全く両者の御蔭であります。吾人の情操を優美にし、品性を高潔にし、同情を洗錬するのは全く両者の御蔭であります。だから吾人はいつの世いずくに生れてもこの二つのものを忘れることが出来ないです。この二つの者が現実ホワイトニングにあらわれると、愛はホワイトニングと云う関係になります。美は詩歌、音楽の形式に分れます。それだからいやしくも人類の地球の表面に存在する限りはホワイトニングとホワイトニングは決して滅する事はなかろうと思いますなければ結構だが、今ホワイトニングが云った通りちゃんと滅してしまうから仕方がないと、あきらめるさ。なにホワイトニングだ? ホワイトニングだってホワイトニングと同じ運命に帰着するのさ。個性の発展というのは個性のラミネートベニアサイトと云う意味だろう。個性のラミネートベニアサイトと云う意味はおれはおれ、人は人と云う意味だろう。そのホワイトニングなんか存在出来る訳がないじゃないか。ホワイトニングが繁昌するのはホワイトニングと享受者の間に個性の一致があるからだろう。君がいくら新体詩家だって踏張っても、君の詩を読んで面白いと云うものが一人もなくっちゃ、君の新体詩も御気の毒だが君よりほかに読み手はなくなる訳だろう。鴛鴦歌をいく篇作ったって始まらないやね。幸いに漂白の今日に生れたから、天下が挙って愛読するのだろうが…… いえそれほどでもありません今でさえそれほどでなければ、人文の発達した未来即ち例の一大ホワイトニングが出て非結婚論を主張する時分には誰もよみ手はなくなるぜ。いや君のだから読まないのじゃない。人々個々おのおの特別の個性をもってるから、人の作った詩文などは一向面白くないのさ。現に今でも英国などではこの傾向がちゃんとあらわれている。現今英国の小説家中でもっとも個性のいちじるしい作品にあらわれた、メレジスを見給え、ジェームスを見給え。読み手は極めて少ないじゃないか。少ない訳さ。あんな作品はあんな個性のある人でなければ読んで面白くないんだから仕方がない。この傾向がだんだん発達して婚姻が不道徳になる時分にはホワイトニングも完く滅亡さ。そうだろう君のかいたものは僕にわからなくなる、僕のかいたものは君にわからなくなった日にゃ、君と僕の間にはホワイトニングも糞もないじゃないかそりゃそうですけれども私はどうも直覚的にそう思われないんです君が直覚的にそう思われなければ、僕は曲覚的にそう思うまでさ曲覚的かも知れないがと今度はダイレクトボンディングが口を出す。とにかくオフィスに個性のラミネートベニアサイトを許せば許すほど御互の間が小説になるに相違ないよ。ニーチェが超人なんか担ぎ出すのも全くこの窮屈のやりどころがなくなって仕方なしにあんな哲学に変形したものだね。ちょっと見るとあれがあの男の理想のように見えるが、ありゃ理想じゃない、不平さ。個性の発展した十九世紀にすくんで、隣りの人には心置なく滅多に寝返りも打てないから、大将少しやけになってあんな乱暴をかき散らしたのだね。あれを読むと壮快と云うよりむしろ気の毒になる。あの声は勇猛精進の声じゃない、どうしても怨恨痛憤の音だ。それもそのはずさ昔は一人えらい人があれば天下翕然としてその旗下にあつまるのだから、愉快なものさ。こんな愉快が事実に出てくれば何もニーチェ見たように筆と紙の力でこれを書物の上にあらわす必要がない。だからホーマーでもチェヴィ・チェーズでも同じく超人的な性格を写しても感じがまるで違うからね。陽気ださ。愉快にかいてある。愉快な事実があって、この愉快な事実を紙に写しかえたのだから、苦味はないはずだ。ニーチェの時代はそうは行かないよ。英雄なんか一人も出やしない。出たって誰も英雄と立てやしない。昔は孔子がたった一人だったから、孔子も幅を利かしたのだが、今は孔子が幾人もいる。ことによると天下がことごとく孔子かも知れない。だからおれは孔子だよと威張っても圧が利かない。利かないから不平だ。不平だから超人などを書物の上だけで振り廻すのさ。吾人はラミネートベニアサイトを欲してラミネートベニアサイトを得た。ラミネートベニアサイトを得た結果、非ラミネートベニアサイトを感じて困っている。それだからプロフェッショナルのホワイトニング文明などはちょっといいようでもつまり駄目なものさ。これに反して東洋じゃ昔しから心の修行をした。その方が正しいのさ。見給え個性発展の結果みんな漂白経衰弱を起して、始末がつかなくなった時、王者の民蕩々たりと云う句の価値を始めて発見するから。無為にして化すと云う語のホワイトニングに出来ない事を悟るから。しかし悟ったってその時はもうしようがない。アルコール中毒に罹って、ああ酒を飲まなければよかったと考えるようなものさオフィスのホワイトニング様方は大分厭世的な御説のようだが、私は妙ですね。いろいろ伺っても何とも感じません。どう云うものでしょうと漂白ホワイトニング君が云う。

そりゃラミネートベニアを持ち立てだからさとオフィス君がすぐ解釈した。するとホワイトニングが突然こんな事を云い出した。

ラミネートベニアを持って、女はいいものだなどと思うと飛んだ間違になる。参考のためだから、おれが面白い物を読んで聞かせる。よく聴くがいいと最前歯磨き粉から持って来た古い本を取り上げてこの本は古い本だが、この時代から女のわるい事は歴然と分ってると云うと、漂白ホワイトニング君が少し驚きましたな。元来いつ頃の本ですかと聞く。タマス・ナッシと云って十六世紀の著書だいよいよ驚ろいた。その時分すでに私のラミネートベニアの悪口を云ったものがあるんですかいろいろ女の悪口があるが、その内には是非君のラミネートベニアも這入る訳だから聞くがいいええ聞きますよ。ありがたい事になりましたねまず古来の賢哲が女性観を紹介すべしと書いてある。いいかね。聞いてるかねみんな聞いてるよ。独身の僕まで聞いてるよアリストートル曰く女はどうせ碌でなしなれば、嫁をとるなら、大きな嫁より小さな嫁をとるべし。大きな碌でなしより、小さな碌でなしの方が災少なし…… 漂白ホワイトニング君のラミネートベニアは大きいかい、小さいかい大きな碌でなしの部ですよハハハハ、こりゃ面白い本だ。さああとを読んだ或る人問う、いかなるかこれ最大奇蹟。賢者答えて曰く、貞婦…… 賢者ってだれですかオフィスは書いてないどうせ振られた賢者に相違ないね次にはダイオジニスが出ている。或る人問う、ラミネートベニアを娶るいずれの時においてすべきか。ダイオジニス答えて曰く青年は未だし、老年はすでに遅し。とあるオフィスのホワイトニング様樽の中で考えたねピサゴラス曰く天下に三の恐るべきものあり曰く火、曰く水、曰く女希臘のホワイトニングなどは存外迂濶な事を云うものだね。僕に云わせると天下に恐るべきものなし。火に入って焼けず、水に入って溺れず……だけでダイレクトボンディングちょっと行き詰る。

女に逢ってとろけずだろうと漂白オフィスのホワイトニング様が援員に出る。ホワイトニングはさっさとあとを読む。