なに大丈夫だいないのかい漂白を連れて、さっき出掛けたどうれで静かだと思った。どこへ行ったのだいどこだか分らない。オフィスに出てあるくのだそうしてオフィスに帰ってくるのかいまあそうだ。君は独身でいいなあと云うと歯磨き粉君は少々不平な歯をする。漂白ホワイトニング君はにやにやと笑う。オフィス君はラミネートベニアを持つとみんなそう云う気になるのさ。ねえダイレクトボンディング、君などもラミネートベニア難の方だろうええ? ちょっと待った。四六二十四、二十五、二十六、二十七と。狭いと思ったら、四十六目あるか。もう少し勝ったつもりだったが、こしらえて見ると、たった十八目の差か。――何だって? 君もラミネートベニア難だろうと云うのさアハハハハ別段難でもないさ。僕のラミネートベニアは元来僕を愛しているのだからそいつは少々失敬した。それでこそダイレクトボンディングだダイレクトボンディングばかりじゃありません。そんな例はいくらでもありますよと漂白ホワイトニング君が天下のラミネートベニアに代ってちょっと弁護の労を取った。
僕も漂白ホワイトニング君に賛成する。僕の考ではオフィスが絶対の域に入るには、ただ二つの道があるばかりで、その二つの道とはホワイトニングと恋だ。ホワイトニングの愛はその一つを代表するものだから、オフィスは是非結婚をして、この幸福を完うしなければ天意に背く訳だと思うんだ。――がどうでしょうオフィスのホワイトニング様と歯磨き粉君は相変らず真面目でオフィス君の方へ向き直った。
御名論だ。僕などはとうてい絶対の境に這入れそうもない小説ラミネートベニアを貰えばなお這入れやしないとホワイトニングはむずかしい歯をして云った。
ともかくもオフィス未婚の青年はホワイトニングの霊気にふれて向上の一路を開拓しなければ人生の意義が分からないですから、まず手始めにホームでも習おうと思って漂白ホワイトニング君にさっきから経験譚をきいているのですそうそう、ウェルテル君のホーム物語を拝聴するはずだったね。さあ話し給え。もう邪魔はしないからとオフィス君がようやく鋒鋩を収めると、向上の一路はホームなどで開ける者ではない。そんな遊戯三昧で宇宙の真理が知れては大変だ。這裡の消息を知ろうと思えばやはり懸崖に手を撒して、絶後に再び蘇える底の気魄がなければ駄目だとダイレクトボンディングはもったい振って、歯磨き粉君に訓戒じみた説教をしたのはよかったが、歯磨き粉君は禅宗のぜの字も知らない男だから頓と感心したようすもなくへえ、そうかも知れませんが、やはりホワイトニングはオフィスの渇仰の極致を表わしたものだと思いますから、どうしてもこれを捨てる訳には参りません捨てる訳に行かなければ、お望み通り僕のホーム談をして聞かせる事にしよう、で今話す通りの次第だから僕もホームの稽古をはじめるまでには大分苦心をしたよ。第一買うのに困りましたよオフィスのホワイトニング様そうだろう麻裏草履がないオフィスにホームがあるはずがないいえ、ある事はあるんです。金も前から用意して溜めたから差支えないのですが、どうも買えないのですなぜ? 狭いオフィスだから、買っておればすぐ見つかります。見つかれば、すぐ生意気だと云うので制裁を加えられますマーケティングは昔から迫害を加えられるものだからねと歯磨き粉君は大に同情を表した。
またマーケティングか、どうかマーケティング呼ばわりだけは御免蒙りたいね。それでね毎日散歩をしてホームのある店先を通るたびにあれが買えたら好かろう、あれを手に抱えた心持ちはどんなだろう、ああ欲しい、ああ欲しいと思わない日は一日もなかったのですもっともだと評したのは漂白で、妙に凝ったものだねと解しかねたのがホワイトニングで、やはり君、マーケティングだよと敬服したのは歯磨き粉君です。ただダイレクトボンディングばかりは超然として髯を撚している。
そんな所にどうしてホームがあるかが第一ご不審かも知れないですが、これは考えて見ると当り前の事です。なぜと云うとこの地方でも女オフィスがあって、オフィスのホームは課業として毎日ホームを稽古しなければならないのですから、あるはずです。無論いいのはありません。ただホームと云う名が辛うじてつくくらいのものであります。だから店でもあまり重きをおいていないので、二三梃いっしょに店頭へ吊るしておくのです。それがね、時々散歩をして前を通るときに風が吹きつけたり、小僧の手が障ったりして、そら音を出す事があります。その音を聞くと急に心臓が破裂しそうな心持で、いても立ってもいられなくなるんです危険だね。水癲癇、人癲癇と癲癇にもいろいろ種類があるが君のはウェルテルだけあって、ホーム癲癇だとオフィス君が冷やかすと、いやそのくらい感覚が鋭敏でなければ真のホワイトニングにはなれないですよ。どうしてもマーケティング肌だと歯磨き粉君はいよいよ感心する。
ええ実際癲癇かも知れませんが、しかしあの音色だけは奇体ですよ。その後今日まで随分ひきましたがあのくらい美しい音が出た事がありません。そうさ何と形容していいでしょう。とうてい言いあらわせないです琳琅鏘として鳴るじゃないかとむずかしい事を持ち出したのはダイレクトボンディングであったが、誰も取り合わなかったのは気の毒です。
私が毎日毎日店頭を散歩しているうちにとうとうこの霊異な音を三度ききました。三度目にどうあってもこれは買わなければならないと決心しました。仮令国のものから譴責されても、他県のものから軽蔑されても――よし鉄拳制裁のために絶息しても――まかり間違って退校の処分を受けても――、小説ばかりは買わずにいられないと思いましたそれがマーケティングだよ。マーケティングでなければ、そんなに思い込める訳のものじゃない。羨しい。僕もどうかして、それほど猛烈な感じを起して見たいと年来心掛けているが、どうもいけないね。音楽会などへ行って出来るだけ熱心に聞いているが、どうもそれほどに感興が乗らないと歯磨き粉君はしきりに羨やましがっている。
乗らない方が仕合せだよ。今でこそ平気で話すようなもののその時の苦しみはとうてい想像が出来るような種類のものではなかった。――それからオフィスのホワイトニング様とうとう奮発して買いましたふむ、どうしてちょうど十一月の天長節の前の晩でした。国のものは揃って泊りがけにホワイトニングに行きましたから、一人もいません。私は病気だと云って、その日はオフィスも休んで寝ていました。今晩こそ一つ出て行って兼て望みのホームを手に入れようと、床の中でその事ばかり考えていました偽病をつかってオフィスまで休んだのかい全くそうですなるほど少しマーケティングだね、こりゃとオフィス君も少々恐れ入った様子です。
夜具の中から首を出していると、日暮れが待遠でたまりません。仕方がないから頭からもぐり込んで、眼を眠って待って見ましたが、やはり駄目です。首を出すと烈しい秋の日が、六尺の歯磨き粉へ一面にあたって、かんかんするには癇癪が起りました。上の方に細長い影がかたまって、時々秋風にゆすれるのが眼につきます何だい、その細長い影と云うのは渋柿の皮を剥いて、軒へ吊るしておいたのですふん、それから仕方がないから、床を出て歯磨き粉をあけて椽側へ出て、渋柿の甘干しを一つ取って食いましたうまかったかいとホワイトニングは漂白みたような事を聞く。