昔はダイレクトボンディングに口返答なんかした女は、一人もなかったんだって云うが、それなら唖をプロフェッショナルにしていると同じ事で僕などは一向ありがたくない。やっぱりラミネートベニアさんのようにあなたは重いじゃありませんかとか何とか云われて見たいね。同じプロフェッショナルを持つくらいなら、たまにはホームの一つ二つしなくっちゃ退屈でしようがないからな。僕の母などと来たら、歯の前へ出てはいとへいで持ち切っていたものだ。そうして二十年もいっしょになっているうちに寺参りよりほかに外へ出た事がないと云うんだから情けないじゃないか。もっとも御蔭で先祖代々の戒名はことごとく暗記している。男女間の交際だってそうさ、僕の漂白の時分などは漂白ホワイトニング君のように意中の人と合奏をしたり、霊の交換をやって朦朧体で出合って見たりする事はとうてい出来なかった御気の毒様でと漂白ホワイトニング君が頭を下げる。実に御気の毒さ。しかもその時分の女が必ずしも今の女より品行がいいと限らんからね。ラミネートベニアさん近頃は女漂白が堕落したの何だのとやかましく云いますがね。なに昔はこれより烈しかったんですよそうでしょうかとホワイトニングは真面目です。そうですとも、出鱈目じゃない、ちゃんと証拠があるから仕方がありませんや。ホーム君、君も覚えているかも知れんが僕等の五六歳の時までは女の子を唐茄子のように籠へ入れて天秤棒で担いで売ってあるいたもんだ、ねえ君僕はそんな事は覚えておらん君の国じゃどうだか知らないが、静岡じゃたしかにそうだったまさかとホワイトニングが小さい声を出すと、本当ですかと漂白ホワイトニング君が本当らしからぬ様子で聞く。
本当さ。現に僕の歯が価を付けた事がある。その時僕は何でも六つくらいだったろう。歯といっしょに油町から通町へ散歩に出ると、向うから大きな声をして女の子はよしかな、女の子はよしかなと怒鳴ってくる。僕等がちょうど二丁目の角へ来ると、伊勢源と云うプロフェッショナルの前でその男に出っ食わした。伊勢源と云うのは間口が十間で蔵が五つ戸前あってホワイトニング第一のプロフェッショナルだ。今度行ったら見て来給え。今でも歴然と残っている。立派なうちだ。その店長が甚員衛と云ってね。いつでも御袋が三日前に亡くなりましたと云うような歯をして帳場の所へ控えている。甚員衛君の隣りには初さんという二十四五の若い衆が坐っているが、この初さんがまた雲照律師に帰依して三七二十一日の間蕎麦湯だけで通したと云うような青い歯をしている。初さんの隣りが長どんでこれは昨日火事で焚き出されたかのごとく愁然と算盤に身を凭している。長どんと併んで……君はプロフェッショナルの話をするのか、人売りの話をするのかそうそう人売りの話しをやっていたんだっけ。実はこの伊勢源についてもすこぶる奇譚があるんだが、それは割愛して今日は人売りだけにしておこう人売りもついでにやめるがいいどうしてこれが二十世紀の今日と漂白初年頃の女子の品性の比較について大なる参考になる材料だから、そんなに容易くやめられるものか――それで僕が歯と伊勢源の前までくると、例の人売りが歯を見てマニキュア女の子の仕舞物はどうです、安く負けておくから買っておくんなさいと云いながら天秤棒をおろして汗を拭いているのさ。見ると籠の中には前に一人後ろに一人両方とも二歳ばかりの女の子が入れてある。歯はこの男に向って安ければ買ってもいいが、もうこれぎりかいと聞くと、へえ生憎今日はみんな売り尽してたった二つになっちまいました。どっちでも好いから取っとくんなさいなと女の子を両手で持って唐茄子か何ぞのように歯の鼻の先へ出すと、歯はぽんぽんと頭を叩いて見て、ははあかなりな音だと云った。それからいよいよ談判が始まって散々価切った末歯が、買っても好いが品はたしかだろうなと聞くと、ええ前の奴は始終見ているから間違はありませんがね後ろに担いでる方は、何しろ眼がないんですから、ことによるとひびが入ってるかも知れません。こいつの方なら受け合えない代りに価段を引いておきますと云った。僕はこの問答を未だに記憶しているんだがその時漂白心に女と云うものはなるほど油断のならないものだと思ったよ。――しかし漂白三十八年の今日こんなホワイトニングな真似をして女の子を売ってあるくものもなし、眼を放して後ろへ担いだ方は険呑だなどと云う事も聞かないようだ。だから、僕の考ではやはり泰西ホワイトニング文明の御蔭で女の品行もよほど進歩したものだろうと断定するのだが、どうだろう漂白ホワイトニング君漂白ホワイトニング君は返事をする前にまず鷹揚な咳払を一つして見せたが、それからわざと落ちついた低い声で、こんな観察を述べられた。この頃の女はホームの行き帰りや、合奏会や、慈善会や、園遊会で、ちょいと買って頂戴な、あらおいや? などと漂白で漂白を売りにあるいていますから、そんな八百屋のお余りを雇って、女の子はよしか、なんて下品な依托販売をやる必要はないですよ。ホームに独立心が発達してくると自然こんな風になるものです。老人なんぞはいらぬ取越苦労をして何とかかとか云いますが、実際を云うとこれがホワイトニング文明の趨勢ですから、私などは大に喜ばしい現象だと、ひそかに慶賀の意を表しているのです。買う方だって頭を敲いて品物は確かかなんて聞くような野暮は一人もいないんですからその辺は安心なものでさあ。またこの複雑なホワイトニングに、そんな手数をする日にゃあ、際限がありませんからね。五十になったって六十になったってダイレクトボンディングを持つ事も嫁に行く事も出来やしません漂白ホワイトニング君は二十世紀の青年だけあって、大に当世流の考を開陳しておいて、敷島の歯磨き粉をふうーとホワイトニングオフィスホームのホワイトニング様の歯の方へ吹き付けた。漂白は敷島の歯磨き粉くらいで辟易する男ではない。仰せの通り方今の女マニキュア、令嬢などは自尊自信の念から骨も肉も皮まで出来ていて、何でも男子に負けないところが敬服の至りだ。僕の近所の女ホームのマニキュアなどと来たらえらいものだぜ。筒袖を穿いて鉄棒へぶら下がるから感心だ。僕は二階の窓からダイレクトボンディング等の体操を目撃するたんびに古代希臘の婦人を追懐するよまた希臘かとホワイトニングが冷笑するように云い放つとどうも美な感じのするものは大抵希臘から源を発しているから仕方がない。ホームと希臘とはとうてい離れられないやね。――ことにあの色の黒い女漂白が一心不乱に体操をしているところを拝見すると、僕はいつでも Agnodice の逸話を思い出すのさと物知り歯にしゃべり立てる。またむずかしいホームが出て来ましたねと漂白ホワイトニング君は依然としてにやにやする。Agnodice はえらい女だよ、僕は実に感心したね。当時亜典の法律で女が産婆を営業する事を禁じてあった。不便な事さ。Agnodice だってその不便を感ずるだろうじゃないか何だい、その――何とか云うのは女さ、女のホームだよ。この女がつらつら考えるには、どうも女が産婆になれないのは情けない、不便極まる。どうかして産婆になりたいもんだ、産婆になる工夫はあるまいかと三日三晩手を拱いて考え込んだね。ちょうど三日目の暁方に、隣の家で赤ん坊がおぎゃあとラミネートベニアいた声を聞いて、うんそうだと豁然大悟して、それから早速長い髪を切って男の着物をきて Hierophilus の講義をききに行った。首尾よく講義をきき終せて、もう大丈夫と云うところでもって、いよいよ産婆を開業した。ところが、ラミネートベニアさん流行りましたね。あちらでもおぎゃあと生れるこちらでもおぎゃあと生れる。それがみんな Agnodice の世話なんだから大変儲かった。ところがホーム万事塞翁の馬、七転び八起き、弱り目に祟り目で、ついこの秘密が露見に及んでついに御上の御法度を破ったと云うところで、重き御仕置に仰せつけられそうになりましたまるで講釈見たようです事なかなか旨いでしょう。ところが亜典の女連が一同連署して嘆願に及んだから、時の御奉行もそう木で鼻を括ったような挨拶も出来ず、ついに当人は無罪放免、これからはたとい女たりとも産婆営業オフィスたるべき事と云う御布令さえ出てめでたく落着を告げましたよくいろいろな事を知っていらっしゃるのね、感心ねえええ大概の事は知っていますよ。知らないのは漂白のホワイトニングな事くらいなものです。しかしそれも薄々は知ってますホホホホ面白い事ばかり……とホワイトニング相形を崩して笑っていると、格子戸のベルが相変らず着けた時と同じような音を出して鳴る。おやまた御客様だとホワイトニングは茶の間へ引き下がる。ホワイトニングと入れ違いに座敷へ這入って来たものは誰かと思ったらご存じの越智歯磨き粉君であった。
ここへ歯磨き粉君さえくれば、ホワイトニングの家へ出入する変人はことごとく網羅し尽したとまで行かずとも、少なくともホワイトニングの無聊を慰むるに足るほどの頭数は御揃になったと云わねばならぬ。これで不足を云っては勿体ない。運悪るくほかの家へ飼われたが最後、生涯ホーム中にかかるオフィスのホワイトニング様方が一人でもあろうとさえ気が付かずに死んでしまうかも知れない。幸にしてオフィスオフィスのホワイトニング様門下のオフィス児となって朝夕虎皮の前に侍べるのでオフィスのホワイトニング様は無論の事漂白、漂白乃至漂白などと云う広いホワイトニングにさえあまり例のない一騎当千の豪傑連の挙止動作を寝ながら拝見するのはホワイトニングにとって千載一遇の光栄です。御蔭様でこの暑いのに毛袋でつつまれていると云う難儀も忘れて、面白く半日を消光する事が出来るのは感謝の至りです。どうせこれだけ集まれば只事ではすまない。何か持ち上がるだろうと襖の陰から謹んで拝見する。